大判例

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東京高等裁判所 昭和59年(う)359号 判決

……前略……本件は,強盗殺人という極めて重大な事犯であるが,前叙のとおり,あらかじめ十分に準備を整えた上敢行された計画的犯行であるうえ,その動機に何ら同情の余地がなく,犯行の態様は,足が不自由で非力な老人に対し,甚だ執拗,残虐かつ徹底した攻撃を加えて即死させたものであること,被害者殺害後は,かねて見知っていたたんすその他の現金収納場所を約2時間にもわたってつぶさに物色し尽くし,開けにくい引出しがあると用意の剪定鋏でこじ開け,女物手袋を見つけると指紋を残さないようにこれをはめ,発見した紙幣及び硬貨のほぼ全部である約128万円もの多額の現金を強取し,逃走に際しては,手を触れたと思われる場所を指紋が残らないよう拭い,吸った煙草の吸いがらまで指紋や血液型が発覚するのを虞れて持ち帰り,被害者方を出てタクシーに乗車した際は,警察犬による追及を予想してわざわざユーターンして方向転換させるなどし,その後兇器の石塊の始末にも十分意を用いるなど周倒に行動し,犯跡隠蔽につとめていること,強取した金員は,一部前記借金の返済等に充てているが,他は犯行当夜現場から逃走したその足で東京都台東区内の旅館に泊り商売女と関係したことを手始めに,犯行の翌日と翌々日にその半ば以上を競輪に費消していること,被害者は用心深い性格であるにもかかわらず被告人に対しては気を許し,家族ぐるみで親しく交際していたのに,被告人は被害者の信頼に乗じ,むしろ,これを利用して本件犯行に及んだもので,恩を仇で返され非業の死を遂げた被害者の無念さは察するに余りあり,遺族の被害感情は事件後2年半を経た現在に至るもなお極めて痛切であること,深夜に駅前繁華街で犯された本件の社会的影響も甚だ大であったと推測されること,加えて被告人は前示のように少年時代相次いで2回にわたり窃盗等の罪を重ねて懲役に処せられたうえ,更に,引続いて本件と態様の類似した強盗殺人等の犯行を敢行して無期懲役に処せられ(なお,被告人の2回目及び3回目の前科である窃盗,強盗殺人等の各犯行は,前叙のとおり,いずれも仮出獄中の事犯である),二十数年の長期にわたり服役し,教化改善の機会を与えられたのに,昭和50年10月仮出獄を許された後,僅か7年余で,しかも保護司による保護観察下にありながら,またも本件事犯を犯すに至ったものであることなど犯行の罪質,動機,態様,結果の重大性,遺族の被害感情,社会的影響,同種前科の存在等諸般の事情を併せ考えると,被告人には意思薄弱性,情性稀薄性,爆発性,自己顕示性を特徴とする性格異常がみられ,その素質が生来的に劣悪なものであることが窺えること,被告人は4歳のころ父を失い,母が弟を連れて他に再婚した後,幼少時親族の間を転々して育てられるなどその不遇な生育歴には同情すべき点もあること,前刑による仮出獄後本件に至るまで約7年間は,若干の非違行為などを挾みながらも一応社会生活を営み,その間妻子を得ていること(本件後妻と離婚した),当審において,被害者の遺族から受取を断られたものの,弁護人を介して遺族に拘置所内における請願作業の賞与金から2万円を送付し,謝罪の意を表わそうとしたこと,被告人が日夜被害者の冥福を祈り心痛の生活を送っている旨述べていることなど被告人のため酌むことのできる諸事情を十分にしん酌し,更に死刑が極限的な刑罰であり,死刑制度を存置する現行法制の下その適用には極力慎重でなければならないことを考慮してみても,なお被告人の罪責は極めて重大であって,被告人に対して死刑をもって臨んだ原判決の量刑は,誠にやむを得ないもので,それが重過ぎて不当であるとは認められない。

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